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教育実践研究をまとめる(7)校内・組織内の課題の分析でまず行うことは

先の投稿において,外向きと内向きの分析があることを述べた。ここでは,内向き,すなわち校内・組織内の課題を分析することを考える。

ここでよく受ける質問で一番多いのは「どのようなアンケートをとったら良いでしょうか?」である。しかし,アンケートを行うというのはかんたんにできるものではないので,その前にまずはやりやすいことから考えたほうが良い。

ひとつは,すでに組織内においてなんらかのデータが残されていることがよくある。例えば,今までアンケートをとっているのだが,それが残っているだけでデータとして活用できていないという事例が見られる。ならばそれを分析しどういう事がわかるか,そしてこのデータで取れていない情報はあるかを検討する。後者については,今後アンケートを行うとしたら,項目の準備につながる。

そのようなデータが残されていなくても,校内に研究紀要,あるいはそこまでいかなくても何らかの文書が残されている可能性がある。ここでもどういう内容が取り上げられているかとか,かつてはどのような目標が設定されていたのかを,過去にさかのぼって調べることができる。

続いて,校内・組織内のリーダー(管理職などの校長)がどのような課題を感じているかをヒアリングしてみるという手段もある。対象者は少数で一般化できるようなデータではないが,トップやリーダー層が考えていることに基づいて,教育実践研究の課題との接点を明確にするのは必ず必要な作業だと言える。

教育実践研究をまとめる(6)問題状況(課題)を分析する

教育実践研究を進める場合,現場が抱える問題状況を分析することが必要である。

この際,内向きと外向きの視点を持つことが必要である。

内向きは,自身の学校(あるいは学級)などが抱えている身近な課題を明らかにするということになる。それにより,どのような課題を抱えており,それがどういう要因により問題があると考えられるのか,ということを検討し,明らかにするということになる。

加えて,外向きの視点が必要である。課題について,他者や他校,他地域がどのように取り組んでいるのか先行事例にあたる。文部科学省等の政策を通して,一般的にどういうことが課題として認識されているのか,それに対してどう対応が検討されているのかを調べる。論文として出されている研究ではこの点に関してどのような研究がなされているのかについても調べる。

そして重要なのが,ここで終わりとするのではなく,内向きの視点と外向きの視点から得られた情報を比較し,どういったことが自身の学校等では問題となっているのかを明確にした上で,それを解決するために教育実践研究の全体像や研究目的をまとめていくということが必要である。

研究の目的を明確化していくには時間がかかる。もちろんはじめから何かをやろうと思って教育実践研究に取り組むのだろうが,この分析を改めて行うと,テーマの見え方が変わってくる。多くの場合,焦点化することが必要である。

教育実践研究をまとめる(5)研究目的としての要因把握

先日,教育実践研究をまとめる(4)研究目的の立て方(効果検証の場合)について投稿をした際,(効果検証の場合)と書いた。となると,その他にもあるということになる。

教職大学院での教育実践研究のように,限られた時間の中で行う実践研究について,私は基本的には何らかの方法や教材内容が対象者に対して効果をもたらすものかを検証し,実践したものをまとめれば良いと考えている。

ただしその前段階となる目的として,対象となる現場においてどのような問題があるか,課題発見を小さな実践研究サイクルでの目的にすることは十分考えられるし,それはあったほうが良いのではないかと思う。これを一応,「要因把握」と名付けることにした(厳密に言うと,違うと思うけれど)。

この際の目的の書き方は例えば,「既存のICT活用研修において,どのような課題があるのかを明確にする」や,「子どもに学力としての成果をもたらしている○○科での授業実践には,どのような要素が共通して見られるのかを明確にする」などといった記述が考えられよう。

しかしこの要因把握という目的だけでは,教職大学院での教育実践研究は成立しないと私は考える。そこでわかったことに基づいて,実践をし,本当にその要因が適用できるかを考えないといけないと考えるからである。アクションリサーチが原則である。

教育実践研究をまとめる(4)研究目的の立て方(効果検証の場合)

どんな研究においても研究目的が明確になっていることが重要である。この研究目的がその内容の成否の鍵を握る。
なにか目的や目標(これらをここでは使い分けるものではないが)について,明確に示すには,インストラクショナル・デザインでも取り上げられるメーガーの3つの質問が参考になる。それは,

  • Where am I going? (どこへ行くのか?)
  • How do I know when I get there?(たどりついたかどうかをどうやって知るのか?)
  • How do I get there?(どうやってそこへ行くのか?)

として記述されるものである。(なお余談にはなるが,このメーガーの3つの質問について,林先生@徳島文理大の記事が大変勉強になるのでおすすめしたい。)

教育実践研究において,仮に何かの効果を検証するという場合には,これらを参考にし,
1.誰のどんな効果をねらえばよいのか(向上させればよいのか),
2.それをどのように把握しようとし,それがどの程度の水準に到達することを目指すのか,
3.どのような方法でその効果をねらうのか,というような形に整理することができるだろう。

1については,「生徒の書く力を向上させる」というような形で記述される。この点で誰の,どのような能力かなどが記述されることが必要である。ここでは,もちろん「書く力」が一体どういう力なのかもその前提で明確にしておくことが必要である。
2について,例えば学力に関するテストで把握するなど評価方法を記述することが必要である。また,それがどの程度に達すればよいかについても述べられないといけない。例えば,事前調査と事後調査を比較し,事後調査が統計的に有意な形で向上するなどといったようなものになるだろうか。なお,これに関しては目的には文章としては組み込まないケースが多いが,目的以降に「研究の方法」として記述されることになる。
3については,効果をもたらすことができる(と考えている)方法を記述することになる。例えば,シンキングツールを活用して・・・とか,ICTの活用で,といったような手段がそれにあたる。

この際,3つが一致しているかどうかも重要である。例えば,1で「生徒の書く力」としたときに,3で教師の授業研究とはめてしまうことが結構ある。授業研究をしたことが生徒の書く力に結びつくまでにはさらなるステップが必要となるので,この場合,課題となる目的について分割をし,授業研究を通して教師の書く力に関する指導力の向上→先生の指導による生徒の書く力の向上,と目的を2段組にして示すことになる(いずれも大きな課題だけれど)。この1と3のセットにブレがなければ,2を検討することになるだろう。

認知的方略と知的技能の区別

大学の教育方法に関する講義において,稲垣忠(編著)教育の方法と技術(北大路書房)を利用している。

これを基本テキストとし,何年か進めてみると,学生から受ける質問として,いくつか共通したものがあることに気がつくことがある。今年度もまた,それに遭遇をしたので,メモとして残しておきたい。

詳細な説明は省くが,第4章に学習目標の5分類というものがある。この5分類のうち,以前に自身のたてた目標がどれにあたるかわからない,明確でないということに気がつく場面がある。このことについてはこの場面だけだけではなんとも判断できず,目標を改善しながら考えていくしかない。

さらに詳細に迫ると,5分類のうち自身のたてた目標が認知的方略にあたるのか,知的技能にあたるのかというところで判断に迷うケースが出てくるようである。

この場合,教科学習において,その学んだことがその教科の中で応用がきくという範囲であれば,知的技能となる。一方,学んだことがいずれの教科にも応用可能な学び方のようなものは,認知的方略と判断するのが,ひとつのセオリーである。

そして加えて言えば,教科学習の指導案を考える際,実際のところはほとんど知的技能と捉えられるような目標が多いのはこれまでの経験で明らかになっている。裏を返せば,認知的方略はあまり学校教育でも授業設計者もあまり意識にない。

しかしながら,この度の学習指導要領改訂において「学習の基盤となる資質・能力」を提示している。これについて,教科に共通して必要な力は何かを考え,各教科でどのように目標を到達させるかというようなことを提案しているといえよう。これは,認知的方略を獲得することに力を入れようとしている動きのように見える。