2025年度を振り返って

1年の仕事も終わるところなので、恒例に従ってまたまとめておく。年度の途中から大教大12年目に入った。

研究については、前年度終了した科研のまとめとなる論文と格闘し、発行してもらえた。忙しさの中で対応がしんどかったが、なんとか発行にこぎつけることができた。この科研で実は誰かと取り組むものは最後とし、あとは個人研究を進める予定であったが、山本先生が本学に来てくれたので、共同して新たなる科研に取り組むことになった。議論の中で刺激をもらえた。この他、長く心の底にしまっていたことを思い出し、個人で別のテーマにも取り組むことにした。頑張って進めることができたのだが、結果を出すために暗中模索。

教育については、その前の年度とほぼ同様の取り組みを進めた。授業準備の時間の確保の仕方を変え、コツコツと進めることができた。来年度は大きく変わっていくことになるので、なんとか踏ん張りたい。

学内ではこの2年間は連合教職実践研究科の副主任という職を務めた。出席をしないといけない会議も増え、もはや何の委員になっているのかよくわからなくなってきた。お引き受けする時は不安であったが、周りの方々に支えられ、なんとか全うすることができた。そのほか、OZONE-EDUについてもユニットリーダーという立場であったが、特に事務の皆さんにお世話になった。

このように大学の仕事が忙しくなったので、昨年度半分になった対外的な仕事はさらにその3分の1ぐらいになった。出張に行っても疲れがなかなかとれないなと思うことが多くなった(歳のせいだな)。ただ、外に行くと会えない人に会えたり、刺激も多いのでこうした機会も欲しいなと思う。

日本教育メディア学会では副会長、日本教育工学会では総務委員長を務めているが、優秀な若い方に支えられている。学会だけではなく、内部の仕事でも若い人に迷惑をかけずにやりたいなと思っているのだけれど、申し訳なく思いつつ、甘えさせてもらっている。

一度出張がらみで若干体調を崩したことはあったものの、普段は比較的健康を維持することができ、バランスよく過ごすことができたと思う。いろんなことを抱えすぎず、人に助けを求めながら、完璧主義に陥ることなく過ごしていきたい。

学会へ行けば、同世代の輝きが眩しい。また、学内外での若手の人の取り組みの真摯さには学ぶべきものが多い。自分は近づけなさそうだけれども、これはやって良かったなあ、という経験を増やしたい。

教育実践研究をまとめる(29)理論と実践の往還(3) 複数の層で考える

ここまで本連載では、「理論と実践の往還」には

理論から実践へ向かう方向

実践から理論へ向かう方向

の二つがあることを説明してきた。

「往還」という言葉が示す通り、理論と実践の間を行き来することが重要である。しかし、ここで一つ注意しておきたいのは、何を理論と捉え、何を実践と捉えるかは、人によって少しずつ異なるという点である。

例えば研究発表会などで「理論」という言葉が使われたとき、それが自分にとっても同じ意味での「理論」になっているとは限らない。自然科学や社会科学の比較的狭い学術コミュニティでは、このような認識のずれは起こりにくい。しかし教育研究のように、多様な立場の人が関わる領域では、理論や実践の捉え方が必ずしも一致しているとは限らない。

そこで、理論と実践の関係を一つの直線的な関係としてではなく、複数の層として捉えると、両者の関係をより柔軟に理解することができる。

例えば、次のような四つの層を考えてみる。

    理論A
 (一般化された理論)
    ⇅
    理論B
 (実践と結びつく理論)
    ⇅
    実践A
(共有・モデル化された実践)
    ⇅
    実践B
 (日々の教育実践)

まず、理論Aとは、広く一般化され、多くの研究によって検証されている理論である。理論モデルが存在し、実証研究によって支持されているものと言える。例えば「自己効力感」は多くの研究で扱われており、この層に位置づく理論の一つだろう。

一方、実践Bは学校で日々行われている教育実践である。授業を終えた教師が「今日は良い授業だった」と感じることはある。しかし、その授業の何がうまくいったのかを言語化し、他の人に説明して理解してもらうことは簡単ではない。日々の実践は豊かなものである一方で、必ずしも言語化され、共有されているわけではない。

これに対して、実践Aは、教育現場の中である程度モデル化され、共有されている実践である。例えば授業モデルや指導方法として整理され、学校のコミュニティの中で共通理解が形成されているような実践がこれに当たる。

そして理論Bは、理論Aと実践Aの間に位置するような存在と考えられる。例えば、理論Aを教育現場に適用しやすい形に整理したものや、実践Aがデータとともに整理され、研究として評価される段階にあるものなどが含まれるだろう。

このように考えると、理論と実践の関係は単純な二分ではなく、いくつかの層の中で連続的に存在していると捉えることができる。

私個人としては、教職大学院において重要なのは、実践Aのような実践を開発し、評価していくことではないかと考えている。そして、その実践が理論Bと結びついていることが示されていることが望ましい。

つまり、日々の実践である実践Bを、共有可能な実践である実践Aへと昇華していくことが重要である。

しかし実際には、このような整理が必ずしも共有されているわけではない。実践Aを意識せず、実践Bがそのまま並べられて終わってしまうケースも少なくない。また、理論Bを意識しているつもりでも、その背景となる理論Aが十分に整理されていないこともある。あるいは実践Aを主張していても、言語化や一般化が十分に行われておらず、実際には実践Bの段階にとどまっていることもある。

もちろん、これらを実現することは簡単ではない。限られた期間の中でそこまで到達できないこともあるだろう。しかし、このような層構造の枠組みを一つの視点として持っておくことで、さまざまな教育実践や研究をより整理して捉えることができるのではないかと思う。

……と、ここまで書いてみて、ふと自分自身のことも気になってきた。私は本当に理論Bを意識して実践を捉えられているだろうか。大学院生に対して、そのような視点で指導できているだろうか。臨床的研究を掲げる博士課程の研究は、このどの層に位置づくのだろうか。

そんなことを考えながら、この文章を書いた。

教育実践研究をまとめる(28) 理論と実践の往還(2) 実践→理論

理論と実践の往還は、理論→実践の逆、実践→理論で捉える方向もある。

教育実践を進めている際に、ある取り組みがうまくいったら、それを人に伝えたくなる。その際は、何をやったのかを伝えた上で、なぜそれが上手くいったのかを言語化する必要がある。逆に、教育実践がなんだかうまくいかずに終わってしまうこともある。こちらも、なぜ上手くいかなかったのかを考えることで、次に繋げようとする。

これらのことを自分の言葉に置き換えて明確に説明することは、難しい。そこで、説明をするための言葉やそれにつながるヒントを探すことになる。この際に、言語化を助ける物差しとして、理論で意味づけをする。

理論を適用として取り組む流れではなく、やってる中で理論との関連性を見出すという発想である。あるいは、やってるうちに理論につながってくるということを意識するということである。こうした立場に立つのは、経験豊富な現職教員の思考の流れとして求められることである。

この立場に立った時に、初めからひとつの理論を持ち出して、無理に合わせないことが大切である。理論はいっぱいある。あるそれらしきひとつが見つかったとしても、たまたまそれが見つかっただけで、もっとクリアに説明できる理論があるかもしれない。あるいは、別の理論をもって、教育実践の様相をより多角的に捉えられるかもしれない。ある理論と別の理論を組み合わせて考えるとより理解が促進されるかもしれない。

理論→実践は、ある特定の理論に集中して整理しやすいのに対し、実践→理論は、暗中模索しながら、理論を通して少しずつ言語化をしていくため、時間もかかりやすく、難しい。後者は一般的な研究の思考ルートとは異なるのだが、実はこういう思考ができてこそその道に長けた専門職となることができるのではないだろうか。

教育実践研究をまとめる(27) 理論と実践の往還(1) 理論→実践

教職大学院のキーワードのひとつに「理論と実践の往還」がある。全国で教職大学院が立ち上がった当初から理念として語られてきたので、もう20年ほど経つだろう。しかし、この言葉の意味について丁寧に説明を聞く機会は少なく、自分なりに整理してみたい。

一般的な理解としては、「理論も実践も大切であり、両者は相互に影響し合うもの」と言えるだろう。だが実際に、その「往復」を感じさせる教育実践研究の発表にはあまり出会わない。そこで今回は、まず「理論→実践」という方向から考えてみたい。

これは、ある理論に基づいて教育実践を構築することを指す。例えば、インストラクショナルデザインのXX理論に基づいて授業を組み立てるといった試みである。こうした研究は、ストレートマスターの院生による実践研究や、現職教員が学会で発表する研究によく見られる。研究者教員からすれば、理論に基づいた指導はわかりやすく、ひとつのケースとして扱いやすいからだ。

ただし課題もある。理論は本来、深い理解を前提に適用されるべきだが、言葉だけを借りればそれらしく見えてしまうため、表層的な利用に陥りやすい。また、学校現場の教員からすると「理論が難解で実践的に感じられない」という評価を受けやすい。さらに、現職院生にとっては「難しい理論名をわざわざ持ち出さなくても、普段から実践していることだ」と受け止められる場合もあり、教育実践研究の題材としては必ずしも適さないこともある。

誤解のないようにしたいが、私はこのような取り組みを否定しているわけではない。むしろ研究としては王道のスタイルである。ただし重要なのは、理論を十分に理解した上で活用すること、そして実践に取り入れる際に「どのように解釈し、具体的にどう適用したのか」を丁寧に示すことである。

さらに「往還」の観点からは、実践後の振り返りが欠かせない。実践の結果を踏まえて、理論の適用条件や限界を検討し、必要なら理論に新たな示唆を加える。このプロセスによってこそ、教育実践研究は理論への貢献を果たすことができると考える。

博士課程院生の募集


本年度より、北海道教育大学・福岡教育大学・大阪教育大学の三大学による 共同学校教育専攻(博士課程・後期3年) が新たに開設されました。

専攻の特色や詳細については、以下のWebページをご参照ください。

私も所属教員として参画しており、専門は教育工学です。本専攻が掲げる「臨床的研究」に基づき、大学院生とともに理論と実践を架橋する研究を推進していきたいと考えています。

なお、初年度は主指導教員を担当しておりませんので、今後私が主指導を務めることになった場合、その方が「第1号」となります。

教育工学やメディア教育の分野で研究を希望される方は、上記Webページをご覧のうえでご連絡ください(専任教員一覧に連絡先が記載されています)。
私自身の研究テーマや活動内容については、このメッセージがあるWebサイトでご参照ください。

学校現場の実践を学術的に検討し、理論的に裏づけられた知見として蓄積することで、現場への還元と学術的貢献の両立を目指しています。 こうした観点を共有できる方々と、協働して研究を展開できれば幸いです。