教育実践研究をまとめる(28) 理論と実践の往還(2) 実践→理論

理論と実践の往還は、理論→実践の逆、実践→理論で捉える方向もある。

教育実践を進めている際に、ある取り組みがうまくいったら、それを人に伝えたくなる。その際は、何をやったのかを伝えた上で、なぜそれが上手くいったのかを言語化する必要がある。逆に、教育実践がなんだかうまくいかずに終わってしまうこともある。こちらも、なぜ上手くいかなかったのかを考えることで、次に繋げようとする。

これらのことを自分の言葉に置き換えて明確に説明することは、難しい。そこで、説明をするための言葉やそれにつながるヒントを探すことになる。この際に、言語化を助ける物差しとして、理論で意味づけをする。

理論を適用として取り組む流れではなく、やってる中で理論との関連性を見出すという発想である。あるいは、やってるうちに理論につながってくるということを意識するということである。こうした立場に立つのは、経験豊富な現職教員の思考の流れとして求められることである。

この立場に立った時に、初めからひとつの理論を持ち出して、無理に合わせないことが大切である。理論はいっぱいある。あるそれらしきひとつが見つかったとしても、たまたまそれが見つかっただけで、もっとクリアに説明できる理論があるかもしれない。あるいは、別の理論をもって、教育実践の様相をより多角的に捉えられるかもしれない。ある理論と別の理論を組み合わせて考えるとより理解が促進されるかもしれない。

理論→実践は、ある特定の理論に集中して整理しやすいのに対し、実践→理論は、暗中模索しながら、理論を通して少しずつ言語化をしていくため、時間もかかりやすく、難しい。後者は一般的な研究の思考ルートとは異なるのだが、実はこういう思考ができてこそその道に長けた専門職となることができるのではないだろうか。

教育実践研究をまとめる(27) 理論と実践の往還(1) 理論→実践

教職大学院のキーワードのひとつに「理論と実践の往還」がある。全国で教職大学院が立ち上がった当初から理念として語られてきたので、もう20年ほど経つだろう。しかし、この言葉の意味について丁寧に説明を聞く機会は少なく、自分なりに整理してみたい。

一般的な理解としては、「理論も実践も大切であり、両者は相互に影響し合うもの」と言えるだろう。だが実際に、その「往復」を感じさせる教育実践研究の発表にはあまり出会わない。そこで今回は、まず「理論→実践」という方向から考えてみたい。

これは、ある理論に基づいて教育実践を構築することを指す。例えば、インストラクショナルデザインのXX理論に基づいて授業を組み立てるといった試みである。こうした研究は、ストレートマスターの院生による実践研究や、現職教員が学会で発表する研究によく見られる。研究者教員からすれば、理論に基づいた指導はわかりやすく、ひとつのケースとして扱いやすいからだ。

ただし課題もある。理論は本来、深い理解を前提に適用されるべきだが、言葉だけを借りればそれらしく見えてしまうため、表層的な利用に陥りやすい。また、学校現場の教員からすると「理論が難解で実践的に感じられない」という評価を受けやすい。さらに、現職院生にとっては「難しい理論名をわざわざ持ち出さなくても、普段から実践していることだ」と受け止められる場合もあり、教育実践研究の題材としては必ずしも適さないこともある。

誤解のないようにしたいが、私はこのような取り組みを否定しているわけではない。むしろ研究としては王道のスタイルである。ただし重要なのは、理論を十分に理解した上で活用すること、そして実践に取り入れる際に「どのように解釈し、具体的にどう適用したのか」を丁寧に示すことである。

さらに「往還」の観点からは、実践後の振り返りが欠かせない。実践の結果を踏まえて、理論の適用条件や限界を検討し、必要なら理論に新たな示唆を加える。このプロセスによってこそ、教育実践研究は理論への貢献を果たすことができると考える。

博士課程院生の募集


本年度より、北海道教育大学・福岡教育大学・大阪教育大学の三大学による 共同学校教育専攻(博士課程・後期3年) が新たに開設されました。

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私も所属教員として参画しており、専門は教育工学です。本専攻が掲げる「臨床的研究」に基づき、大学院生とともに理論と実践を架橋する研究を推進していきたいと考えています。

なお、初年度は主指導教員を担当しておりませんので、今後私が主指導を務めることになった場合、その方が「第1号」となります。

教育工学やメディア教育の分野で研究を希望される方は、上記Webページをご覧のうえでご連絡ください(専任教員一覧に連絡先が記載されています)。
私自身の研究テーマや活動内容については、このメッセージがあるWebサイトでご参照ください。

学校現場の実践を学術的に検討し、理論的に裏づけられた知見として蓄積することで、現場への還元と学術的貢献の両立を目指しています。 こうした観点を共有できる方々と、協働して研究を展開できれば幸いです。

教育実践研究をまとめる(26) 先行研究から学びを深める

専門的な学びを進める上で、先行研究を調べるのは欠かせない。このことについて、少なくとも2度にわたって述べてきた。

しかし、「どのように調べればよいのか」ということについては述べていなかった。そこで本稿では、先行研究にあたり、学習を深めるための視点と方法を紹介する。

1. 広く調べてから絞り込む、そして記録する
基本は、広範な情報に目を通したうえで徐々に対象を絞り込んでいくことである。授業で紹介される文献は厳選された資料であることが多いが、それが必ずしも自身の関心や研究課題に合致するとは限らない。そのため、自ら積極的に情報を調べる姿勢が求められる。

多くの資料にあたり、共通する概念や論点、キーワードを見つけ出すことが重要である。また、調べた内容を記録・整理しておくことで、後の執筆において大きな助けとなる。

2. 一般的な言葉から「より専門的な言葉」へ掘り下げる
日常的に用いられる言葉(例:「リーダーシップ」)は抽象的で広義的であるため、学術的な探究においては、その下位概念や具体的な用語を見出すことが求められる。

たとえば、「リーダーシップ」という語を出発点に、「スクールリーダーシップ」「ミドルリーダーシップ」「学校運営」「学校経営」「学級経営」など、より文脈に即した専門用語へと掘り下げていくことが有効である。これらの語は学校教育における固有の文脈を持ち、検索精度の向上にもつながる。

近年では、生成AIを活用し、関連あるキーワードを広げることも可能であり、調査の初期段階において有効な補助手段となっている。

3. 「人」を起点に研究を広げる
先行研究を深めるうえで、その分野における「キーパーソン」(主要な研究者や著者)を把握することはきわめて重要である。以下のような手法を用いるとよい。

図書館の活用:大学図書館、特に関連の蔵書が充実している館(例えば大阪教育大学は当然教育関係の書籍が多い)では、関連分野の資料に効率よくアクセスできる。複数の資料に目を通し、全体像を把握することで、研究の焦点を明確にすることが可能である。

著者に注目する:文献を読み進める中で、頻繁に登場する著者名に着目すると、その分野での影響力を持つ研究者が見えてくる。

学術データベースの活用:キーパーソンと見なされる研究者の他の著作を、CiNii Researchなどのデータベースで検索することで、新たな関連文献や引用文献にアクセスできる。

引用文献の追跡:論文に記載された参考文献リストを辿ることで、当該研究の理論的背景や先行的議論を把握できる。引用文献はその分野で基礎的な位置づけを持つことが多く、研究を深めるうえで不可欠である。

4. 論文誌や学会を活用する
特定の論文が見つかった場合、その論文が掲載されている論文誌全体に目を通すことで、関連する研究の傾向や分野の動向を掴むことができる。たとえば、「日本教育工学会論文誌」に掲載された論文があれば、同誌の他の論文も類似のテーマを扱っている可能性が高い。

また、調べていた論文誌が発行している学会やそれに関連する学会(例えば、ICTに関する論文で日本教育工学会の存在を知ったなら,関連しそうな教育メディア学会や教育システム情報学会など)に注目し、発表論文や論文集、シンポジウムなどの情報を活用することで、より多角的な視点を得ることが可能となる。

教育実践研究をまとめる(25)報告書に向けた「実践の締切」と教育実践研究の進め方

この時期、教職大学院に在籍する修了年度の院生たちは、年間の計画を立て始めていることが多い。理想を言えば、こうした計画は前年度のうちに策定しておくのが望ましいが、新年度を迎え、自身の立場や学校内の体制が明確になると、それに応じて計画を見直す場面も多くなる。

では、年間計画を立てる際、どのような時期を念頭に置くべきだろうか。

これは経験に基づく話であるが、筆者の勤務校では、報告書の提出期限が例年1月中旬に設定されている。そのため、筆者は学生に対し、「11月末までに行った実践や収集したデータ」を報告書に盛り込むことを目安とするよう指導している。

しかし、11月末はまだ第2学期の途中にあたり、すべての実践を終えるにはやや早い時期である。理想を言えば、11月末までに教育実践研究の計画をほぼ完了させ、それを報告書にまとめるという流れが望ましい。

一方で、学校現場にはその後も3~4ヶ月の期間が残されており、学校ぐるみで取り組む教育実践研究を対象とする場合、「報告書の締切があるので、11月までに計画を完了させたい」と申し出ても、現実的には受け入れられにくい。これは避けがたいジレンマである。

したがって、11月末を一区切りとしながらも、無理のない計画を立てることが肝要である。12月以降も現場での取組が継続されるのが一般的だが、11月時点で5%しか進んでいない実践が、2月や3月に一気に完了するとは考えにくい。

逆に、11月末時点でおおむね8割の実践が終了していれば、その時点での到達状況と今後の見込みを報告書に記述することで、読み手にも「残りも含めて概ね到達するであろう」と自然に理解される。

要するに、教育実践研究の全体像を重視しつつ、途中経過と今後の見通しを報告書に示すという姿勢が求められる。

ただし、ここで述べているのは、現職教員が学校ぐるみで実施する教育実践研究を、教職大学院の報告書としてまとめる場合に限った話である。学会誌に投稿する論文については、実践が完了してから執筆するのが原則であり、このタイムラインは適用されない。