教育実践研究をまとめる(29)理論と実践の往還(3) 複数の層で考える

ここまで本連載では、「理論と実践の往還」には

理論から実践へ向かう方向

実践から理論へ向かう方向

の二つがあることを説明してきた。

「往還」という言葉が示す通り、理論と実践の間を行き来することが重要である。しかし、ここで一つ注意しておきたいのは、何を理論と捉え、何を実践と捉えるかは、人によって少しずつ異なるという点である。

例えば研究発表会などで「理論」という言葉が使われたとき、それが自分にとっても同じ意味での「理論」になっているとは限らない。自然科学や社会科学の比較的狭い学術コミュニティでは、このような認識のずれは起こりにくい。しかし教育研究のように、多様な立場の人が関わる領域では、理論や実践の捉え方が必ずしも一致しているとは限らない。

そこで、理論と実践の関係を一つの直線的な関係としてではなく、複数の層として捉えると、両者の関係をより柔軟に理解することができる。

例えば、次のような四つの層を考えてみる。

    理論A
 (一般化された理論)
    ⇅
    理論B
 (実践と結びつく理論)
    ⇅
    実践A
(共有・モデル化された実践)
    ⇅
    実践B
 (日々の教育実践)

まず、理論Aとは、広く一般化され、多くの研究によって検証されている理論である。理論モデルが存在し、実証研究によって支持されているものと言える。例えば「自己効力感」は多くの研究で扱われており、この層に位置づく理論の一つだろう。

一方、実践Bは学校で日々行われている教育実践である。授業を終えた教師が「今日は良い授業だった」と感じることはある。しかし、その授業の何がうまくいったのかを言語化し、他の人に説明して理解してもらうことは簡単ではない。日々の実践は豊かなものである一方で、必ずしも言語化され、共有されているわけではない。

これに対して、実践Aは、教育現場の中である程度モデル化され、共有されている実践である。例えば授業モデルや指導方法として整理され、学校のコミュニティの中で共通理解が形成されているような実践がこれに当たる。

そして理論Bは、理論Aと実践Aの間に位置するような存在と考えられる。例えば、理論Aを教育現場に適用しやすい形に整理したものや、実践Aがデータとともに整理され、研究として評価される段階にあるものなどが含まれるだろう。

このように考えると、理論と実践の関係は単純な二分ではなく、いくつかの層の中で連続的に存在していると捉えることができる。

私個人としては、教職大学院において重要なのは、実践Aのような実践を開発し、評価していくことではないかと考えている。そして、その実践が理論Bと結びついていることが示されていることが望ましい。

つまり、日々の実践である実践Bを、共有可能な実践である実践Aへと昇華していくことが重要である。

しかし実際には、このような整理が必ずしも共有されているわけではない。実践Aを意識せず、実践Bがそのまま並べられて終わってしまうケースも少なくない。また、理論Bを意識しているつもりでも、その背景となる理論Aが十分に整理されていないこともある。あるいは実践Aを主張していても、言語化や一般化が十分に行われておらず、実際には実践Bの段階にとどまっていることもある。

もちろん、これらを実現することは簡単ではない。限られた期間の中でそこまで到達できないこともあるだろう。しかし、このような層構造の枠組みを一つの視点として持っておくことで、さまざまな教育実践や研究をより整理して捉えることができるのではないかと思う。

……と、ここまで書いてみて、ふと自分自身のことも気になってきた。私は本当に理論Bを意識して実践を捉えられているだろうか。大学院生に対して、そのような視点で指導できているだろうか。臨床的研究を掲げる博士課程の研究は、このどの層に位置づくのだろうか。

そんなことを考えながら、この文章を書いた。