教育実践研究をまとめる (22)構想図,ネットワーク図を作ろう

教育実践研究の成果を発信する場としては,最終報告書に加え,大学院での発表会や学会での発表がある。発表の際には,まず自身の研究の全体像を伝えることで,聞き手に理解してもらいやすくなる。

発表を聞く人はタイトルから興味を持つが,多くの場合,その内容を初めて聞くか,以前に聞いたことがあっても忘れている可能性が高い。そのため,「聞き手が知らない」「初めて聞く」という前提で情報を提供することが重要である。これは,同じメンバーで行うゼミでの発表とは異なる。ゼミメンバーは,発表を繰り返し聞いているから,説明していない点もなんとなく理解してくれるからである。

研究の全体像を伝えるには,1枚の構想図を提示するのが効果的である。私の経験では,多くの方は私などよりも構造を視覚的に示すことが得意であり,数回繰り返すうちわかりやすいものを作成してくることが多い。

もし図示が苦手な場合は,研究の目的と手順を順序立てて示すだけでも聞き手の理解が深まるだろう。長期的に進める教職大学院の教育実践研究では,目的と手順を整理するだけでも内容がわかりやすくなる。パワーポイントのSmartArt程度の簡単な図で十分である。手順がまだ整理されていない場合は,教職大学院の複数科目にわたる実習内容を科目ごとに整理するのも有効である。

さらに,複数のメンバーや組織単位で進める研究では,関係者の役割を示すネットワーク図を描いてみるのも良い。誰が研究に関わり,どのような役割を果たしているかを明示することで,研究の背景がわかりやすくなる。たとえば,研究主任として校長や教頭,学年主任とどのように連携し,役割を分担しているかを図示すると効果的である。

このように作成した図は,報告書にも活用できる。当初の計画段階で作成した図はあまり具体的にならないことが多いので,むしろ実践の途中から描き始めても遅くはない。

学校の実践に役立つ研究であること

昨年度の末,1本の論文が本学の紀要に掲載された。

寺嶋 浩介,勝田浩次, 斉田俊平, 菊地寛, 平田篤史, 中川一史(2024) 思考力・判断力・表現力の自己評価項目の類型化-小・中学校の学習指導要領に基づいて-. 『教育実践研究』17, pp.1-10.(2024年3月29日)
https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/webopac/TD00032924

学校現場で使える項目を意識し,長い時間をかけ,項目は作成された。そして,その調査を行った結果もまとめた。

「学校現場で使えること」を意識すると,その方法は,研究論文化される「研究」の厳密さからどうしても離れていってしまう。そのようなことを感じさせられた。

この取り組み,以前の学習指導要領で行ったことを,今の学習指導要領にもその考えを適用しながら取り組んだものであった。私の中では実ははじめはやるつもりはなかったのだが,声をかけられ取り組むこととなったものだ。その際なぜか複数の人から別々のところで声をかけられ,学校現場でのニーズもあるのかと思い,取り組みましょうか,ということで進めたものであった。そのような経緯で,複数名の校種も異なる先生方と進めた。

少しでも学校現場に届いて,役立ってくれたらなと思う。

なお,本誌の中で引用もしているけれど,高等学校における項目も作成をしている(が,われわれとしては調査を行っていないので,本論文には掲載していない)。項目だけなら,以下にある。

勝田 浩次, 寺嶋 浩介, 斉田 俊平, 菊地 寛, 平田 篤史, 中川 一史(2022) 学習指導要領に基づく思考力・判断力・表現力の自己評価用項目の開発-小中高等学校の学習指導要領を対象として-. 『日本教育工学会研究会報告集』JSET2022-2, pp.156-161.(2022年7月2日)
https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.2_156

    2023年度を振り返って

    本年度の途中から大阪教育大学での生活は10年目へと入った。あと半年ほど務めると,その長さは前任校の長崎大学と同じ長さになる。そんな長さになったのだなと思う。

    これを書く前に前年度の取り組みを見たが,今年度は劇的に何かが変わった訳ではないが,少しずつ変わってきていることも実感した1年であった。

    研究では,代表者となっている研究が3年目で,目指していたシステムがある程度開発され,調査を重ねている。もちろん思ったように進んでいないところもあるけれど,計画として想定していたことはある程度出来ている。これは分担者のおふたりによるところが大きい。論文化を検討することになる。この他紀要論文が発行予定である。企業との共同研究もいくつかあるが,今後どう進めるかは課題になっている。

    教育においては,連合教職実践研究科を中心に担当している。今回で4回目となるようであるが,現職教員の大学院生を送り出している。今年度は特に順調であったが,来年度は人数が多めとなること,自分の担当授業を考えると時間のやりくりが課題となりそうだ。講義のティームティーチングの多さ,その組み合わせが多いのが大変で,連絡調整等に苦労をしている。しかし今年度は1月に体調を崩した際,多くの先生に助けていただいた。そして他の先生方から学ぶ機会も多く,組織全体としては必要なことであることも実感をした。

    学内の活動においては,2024年度からの大学院の改組を控えていた時期で,特に教務の科目廃止や時間割の編成等において苦労を要したが,4月からはこれらを軌道に乗せていくのが大変そうだ。その他,大学全体として進めている取り組みに関わることも増えてきた。こうしたことにより参加する会議も増えたが,4月以降もさらに増える見込みである。いろいろな取り組みの中でも,今までにはコミュニケーションを取ることがなかった先生や職員の方にお会いできたのは良かったと思う。

    学内のことが増えたため,対外的な仕事は減った(というができなくなった)。非常勤講師は大阪公立大学だけお引き受けしていたが,今年度で終了させていただくことになった。校内研修や講演は,1-2割減った。ただその中では複数回関わる自治体や学校があったことは自分にとっても良かったと思う。時間はかかるが,引き受けて終わりではなく,打ち合わせなどを通して実施することを明確にするように努力した。あと,学外の会議や取り組みに関しても参加する機会も例年通りあった。

    学会については,日本教育工学会では,総務委員会を担当しているがようやく少しは分かってきたところ,そして来年度は選挙管理委員の仕事を進めていくことが大きなものとなる。ショートレター編集委員となったが,次年度は幹事という役割となり,重くのしかかりそう。重点領域活動については,先日ようやく論文が発行され,時間がかかったが最後までなんとか成し遂げられた。みなさんに感謝。日本教育メディア学会では国際誌の担当,日本教育工学協会の学校情報化認定は力尽きかけ気味であまり貢献できなかった。本当に申し訳ありません。

    来年度からはさらに仕事が増えそうである。体調の管理は相変わらず必要であるが,体調を壊しても心配しなくてよいぐらいに仕事をしつつ,研究的に考えられる場面が増えると良いなと思う。

    教育実践研究をまとめる(21)結果をどうまとめるか(その2:評価)

    前回書いたものから数ヶ月がたってしまった。

    前回は,以下をまとめることが必要であること,そのうち1の内容について説明をしている。

    1について書かずに2に入ってしまうと,よくわからなくなるため,実際に行ったことを述べることが必要である。

    1.実践した内容
    2.その内容の評価

    今回は,2について説明する。多分実践研究をやろうとしている人は,書かないといけないことは意識はしているが,やったことだけ書いて終わっているもの(上記1だけのもの)や,感想に終わってしまっているものなどが見られることがある。

    ここでは,大きく2つに分けられる。

    (1)終わってわかったこと(データや行動に基づいて)

    (2)できたことと出来なかったこと,リフレクション(成果と課題)

    (1)は,実践が終わったのち,データを分析した結果について述べる。アンケートによるデータやその分析結果,インタビューの分析などがあるだろう。あるいは,授業等における児童や生徒の行動の分析等があるかも知れない。これらは,教育実践が終わってからそのデータを分析することが一般的である。その前に計画をした評価方法・データの収集方法に従って述べること,できるだけ客観的なデータ,誰が分析しても同じような結果になるデータをここでは取り上げるのが中心である。それを踏まえて,データからどのようなことが言えるのかをまとめる。

    (2)はより主観的なものとなる。教育実践研究においてはこれも重要であると別のところでも説明してきた。計画に即して,できたことと出来なかったこと,あるいは計画にもなかったがこれをやっておけばよかったのではないかと考えることなど,自身の振り返りをまとめる。ここでは,成果と課題のバランスが重要である。課題はたくさん見つかるかも知れないが,課題を見つけることは簡単なので,何ができたのかをきちんと述べることがまず重要である。

    この部分が書けていない例として,いくつかのパターンがある。

    ・(1)がなく,(2)しか書いていない

    ・(2)がない

    ・データのみが羅列されており,どうだったかの解釈がない

    ・課題がなく,研究というよりかはアピールとなっている

    ・成果がなく,ただの反省となってしまっている

    すべての内容をバランスよくまとめていることが必要である。