学校の実践に役立つ研究であること

昨年度の末,1本の論文が本学の紀要に掲載された。

寺嶋 浩介,勝田浩次, 斉田俊平, 菊地寛, 平田篤史, 中川一史(2024) 思考力・判断力・表現力の自己評価項目の類型化-小・中学校の学習指導要領に基づいて-. 『教育実践研究』17, pp.1-10.(2024年3月29日)
https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/webopac/TD00032924

学校現場で使える項目を意識し,長い時間をかけ,項目は作成された。そして,その調査を行った結果もまとめた。

「学校現場で使えること」を意識すると,その方法は,研究論文化される「研究」の厳密さからどうしても離れていってしまう。そのようなことを感じさせられた。

この取り組み,以前の学習指導要領で行ったことを,今の学習指導要領にもその考えを適用しながら取り組んだものであった。私の中では実ははじめはやるつもりはなかったのだが,声をかけられ取り組むこととなったものだ。その際なぜか複数の人から別々のところで声をかけられ,学校現場でのニーズもあるのかと思い,取り組みましょうか,ということで進めたものであった。そのような経緯で,複数名の校種も異なる先生方と進めた。

少しでも学校現場に届いて,役立ってくれたらなと思う。

なお,本誌の中で引用もしているけれど,高等学校における項目も作成をしている(が,われわれとしては調査を行っていないので,本論文には掲載していない)。項目だけなら,以下にある。

勝田 浩次, 寺嶋 浩介, 斉田 俊平, 菊地 寛, 平田 篤史, 中川 一史(2022) 学習指導要領に基づく思考力・判断力・表現力の自己評価用項目の開発-小中高等学校の学習指導要領を対象として-. 『日本教育工学会研究会報告集』JSET2022-2, pp.156-161.(2022年7月2日)
https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.2_156

    2023年度を振り返って

    本年度の途中から大阪教育大学での生活は10年目へと入った。あと半年ほど務めると,その長さは前任校の長崎大学と同じ長さになる。そんな長さになったのだなと思う。

    これを書く前に前年度の取り組みを見たが,今年度は劇的に何かが変わった訳ではないが,少しずつ変わってきていることも実感した1年であった。

    研究では,代表者となっている研究が3年目で,目指していたシステムがある程度開発され,調査を重ねている。もちろん思ったように進んでいないところもあるけれど,計画として想定していたことはある程度出来ている。これは分担者のおふたりによるところが大きい。論文化を検討することになる。この他紀要論文が発行予定である。企業との共同研究もいくつかあるが,今後どう進めるかは課題になっている。

    教育においては,連合教職実践研究科を中心に担当している。今回で4回目となるようであるが,現職教員の大学院生を送り出している。今年度は特に順調であったが,来年度は人数が多めとなること,自分の担当授業を考えると時間のやりくりが課題となりそうだ。講義のティームティーチングの多さ,その組み合わせが多いのが大変で,連絡調整等に苦労をしている。しかし今年度は1月に体調を崩した際,多くの先生に助けていただいた。そして他の先生方から学ぶ機会も多く,組織全体としては必要なことであることも実感をした。

    学内の活動においては,2024年度からの大学院の改組を控えていた時期で,特に教務の科目廃止や時間割の編成等において苦労を要したが,4月からはこれらを軌道に乗せていくのが大変そうだ。その他,大学全体として進めている取り組みに関わることも増えてきた。こうしたことにより参加する会議も増えたが,4月以降もさらに増える見込みである。いろいろな取り組みの中でも,今までにはコミュニケーションを取ることがなかった先生や職員の方にお会いできたのは良かったと思う。

    学内のことが増えたため,対外的な仕事は減った(というができなくなった)。非常勤講師は大阪公立大学だけお引き受けしていたが,今年度で終了させていただくことになった。校内研修や講演は,1-2割減った。ただその中では複数回関わる自治体や学校があったことは自分にとっても良かったと思う。時間はかかるが,引き受けて終わりではなく,打ち合わせなどを通して実施することを明確にするように努力した。あと,学外の会議や取り組みに関しても参加する機会も例年通りあった。

    学会については,日本教育工学会では,総務委員会を担当しているがようやく少しは分かってきたところ,そして来年度は選挙管理委員の仕事を進めていくことが大きなものとなる。ショートレター編集委員となったが,次年度は幹事という役割となり,重くのしかかりそう。重点領域活動については,先日ようやく論文が発行され,時間がかかったが最後までなんとか成し遂げられた。みなさんに感謝。日本教育メディア学会では国際誌の担当,日本教育工学協会の学校情報化認定は力尽きかけ気味であまり貢献できなかった。本当に申し訳ありません。

    来年度からはさらに仕事が増えそうである。体調の管理は相変わらず必要であるが,体調を壊しても心配しなくてよいぐらいに仕事をしつつ,研究的に考えられる場面が増えると良いなと思う。

    教育実践研究をまとめる(21)結果をどうまとめるか(その2:評価)

    前回書いたものから数ヶ月がたってしまった。

    前回は,以下をまとめることが必要であること,そのうち1の内容について説明をしている。

    1について書かずに2に入ってしまうと,よくわからなくなるため,実際に行ったことを述べることが必要である。

    1.実践した内容
    2.その内容の評価

    今回は,2について説明する。多分実践研究をやろうとしている人は,書かないといけないことは意識はしているが,やったことだけ書いて終わっているもの(上記1だけのもの)や,感想に終わってしまっているものなどが見られることがある。

    ここでは,大きく2つに分けられる。

    (1)終わってわかったこと(データや行動に基づいて)

    (2)できたことと出来なかったこと,リフレクション(成果と課題)

    (1)は,実践が終わったのち,データを分析した結果について述べる。アンケートによるデータやその分析結果,インタビューの分析などがあるだろう。あるいは,授業等における児童や生徒の行動の分析等があるかも知れない。これらは,教育実践が終わってからそのデータを分析することが一般的である。その前に計画をした評価方法・データの収集方法に従って述べること,できるだけ客観的なデータ,誰が分析しても同じような結果になるデータをここでは取り上げるのが中心である。それを踏まえて,データからどのようなことが言えるのかをまとめる。

    (2)はより主観的なものとなる。教育実践研究においてはこれも重要であると別のところでも説明してきた。計画に即して,できたことと出来なかったこと,あるいは計画にもなかったがこれをやっておけばよかったのではないかと考えることなど,自身の振り返りをまとめる。ここでは,成果と課題のバランスが重要である。課題はたくさん見つかるかも知れないが,課題を見つけることは簡単なので,何ができたのかをきちんと述べることがまず重要である。

    この部分が書けていない例として,いくつかのパターンがある。

    ・(1)がなく,(2)しか書いていない

    ・(2)がない

    ・データのみが羅列されており,どうだったかの解釈がない

    ・課題がなく,研究というよりかはアピールとなっている

    ・成果がなく,ただの反省となってしまっている

    すべての内容をバランスよくまとめていることが必要である。

    教育実践研究をまとめる(20) 結果をどうまとめるか(その1: 実践の内容)

    これまで,計画段階のこと,結果や成果と「実際にやったことは異なる」ということを示してきた。

    こうしたことを踏まえ,教育実践を行った際,どのようにまとめるかについてまだ具体化していなかった。今回は,このことについてまとめる。

    通常の論文でいくと,「方法」の次の「結果」にあたるセクションである。しかし,「結果」を書きましょう,と言われ書くだけでは,見落としてしまうこと,伝えきれないことがある。

    この「結果」セクションにおいては,大きくは次のような情報が必要である。
    1.実践した内容
    2.その内容の評価
    本稿においては,まず1について説明をし,覚えていたら次の投稿で2について説明したい。

    この1において書くことは,次のようなことである。なお,その前には先の記事にあるように,「計画」を執筆している前提とする。

    • 計画どおりに,実際に行ったことや行えたこと,計画にそって進めたときに実際に起きたこと
    • 計画と異なったところ,意図していなかったことで実際に起きたこと,突発的に対応したこと,
    • 計画と比較し,なぜそうなったのか

    計画したことはあくまで机上のことなので,計画通りいったとしてもその実際の詳細について書く必要がある。そして教育実践が100%計画通り進むことはまずありえない。このことから,以上が何だったのか,実践した内容をまず明確にすることが必要である。「結果」だからいきなりアンケートのデータを並べられても,実践内容がないとなんのことかさっぱりわからない,ということになる。

    そして,この実践内容に当たっては,それを特に誰が行ったのか,主語を明確にすることが必要である。教育実践研究をまとめる際には,行う主体は自分自身である。しかし,実際に起きたことなどをまとめるとすると,児童・生徒が反応や,他の教師の対応などの情報が入ってくることが予想されるからである。

    次回は上記2についてまとめたい。

    大村市立大村中学校20230928

    長崎県大村市は,長崎空港を抱える市。この市の大村中学校で,文科省リーディングDX事業に関わる授業公開があるということで,そこで講演をすることになった。

    長崎から大阪教育大学に異動して9年目,まさか呼ばれることになるとはと正直驚いた。長崎大学に着任したとき,教育実践総合センターという教育実習を扱うところに所属した。その際,附属校との共同研究で,当時附属中の実習担当としてお世話になったのが大村中の現校長の田中先生であった。その後も,教職大学院の同僚としてもご一緒する時期もあった。そんなつながりから訪問をした今回の研究会であった。

    理科の公開授業が1本あり,それに合わせて授業について議論がなされた。いわゆる個別最適な学びを意識し,クラウド環境を活用しようとする,リーディングDXで目指されている授業だったように思う。授業構想シート(大村中学校の研究のページ)なるものを用意し,先生方がそれに沿った授業づくりを行っているということであった。それについて倉田先生@長崎大学が講評され,そのあとに私の講演があった。

    ICTの活用というよりは,教育方法の観点からお話する時間が多くなったが,それで良かったかな…と思いつつ90分とたっぷり話した。2月にも第2弾の公開研究会が催されることになっている。

    研究会に参加された人の中には,私の授業を履修していた方や,お知り合いの方などが数名おられ,懐かしい再開を果たした。中でも,長崎時代の終盤に附属学校を通してお世話になった教育庁の鶴田先生とも久しぶりにお会いすることができた。現在では,長崎県の教育の情報化を担っておられる。

    昔のつながりを懐かしく思いつつ,現在の長崎での取り組みに少し貢献でき,嬉しく思った1日であった。