教育実践研究をまとめる(24)研究倫理(2)研究倫理は3つの層で考える

教育実践研究を進めようとしている現職教員は、研究倫理は3つの層に留意をして研究を進めるのが良い。

最も基本的なものは、(1)公務員・教師としての倫理である。これは研究に関わりなく、その職業に関わる人が意識しなければいけない倫理である。これは大学等の教育機関で指導を受けるものではなく、教員研修等で指導を受けるものである。研究を進める際にもまず一職業人として意識をしなければいけないものである。

続いて、(2)一般的な研究者としての倫理である。これについては、研究者一般が知っておかなければいけない研究倫理となる。これは体系的にまとめられており、以下のように日本学術振興会のWebページより誰でもテキストを入手することができる。大学に所属している場合は、eラーニング教材に取り組むことが大学院生にも課せられているケースが多いと思う。一般的な研究倫理となるので、これも共通して学ばなければいけない事項である。

科学の健全な発展のために-誠実な科学者の心得-

https://www.jsps.go.jp/j-kousei/rinri.html

この研究教材は、学習していると、教育実践研究を進める現職教員にはあまりイメージできないものもある。例えば、研究室に所属をし、教授をはじめとするラボメンバーと共に共同研究を進めることなどがその一例である。他に実験を通して得られた画像の加工など、おおよそ自身の研究とはあまり関わると思われない理系的な研究も自身のイメージからは遠いものとなる。ただこうした教材から研究の幅広さを知ったり、自分の研究に置き換えて考えてみるとあてはまる部分もあると考えられるので、こうした視点からも学習しておきたい。

最後に、(3)教育実践研究者に求められる固有の倫理というものがある。教育実践研究においては学校における教師や子どもが対象となる。教師は学校に所属をしており、管理職が労務等を管理している。子どもには、保護者がいる。学校を取り巻くこうした人たちは働いている時は身近な存在であるが、研究を通してこれらの方々に関わる際は、あくまで研究者として関わっていく事になる。普段の関係性はもちろん大事であるが、ここでは研究者として留意しながら依頼をしたり関わったりしていくことで様々な人から研究への理解を得ることが必要である。

大学における研究倫理の指導は上記の(2)に特化されているケースが多い。(3)は教育研究に関わる各研究分野で、その対応や敏感さがまちまちである。まずは上記した3層構造を意識して教育実践研究を進めるのが良いと思われる。

教育実践研究をまとめる(23)研究倫理(1)研究倫理を考えるメリットは

近年、研究を進める上で、研究倫理を考えることは避けて通れない重要な課題である。実際に研究倫理に関わる様々な問題が発生しており、それを防ぐためにも、教育実践研究に取り組む人はこの問題に真摯に向き合う必要がある。

しかし、研究倫理を学ぶことや指導することが、どこか暗く重いものに感じられる場合もあるのではないだろうか。過去の事例や「これをしてはいけない」という教訓を通じて学ぶ過程で、不安や責任の重さを感じることは少なくない。さらに、研究を進める中で「これで正しいのだろうか」という疑念が生じることも多い。こうした悩みは、研究倫理を考える上で必ず出てくる場面である。

しかしながら、研究倫理を考えることには意義がある。例えば、倫理審査申請書を作成する際には、自分の研究の目的や計画、予想される課題を他者に理解してもらう必要がある。この過程を通じて、自身の研究計画がより明確化され、研究の進行において重要な役割を果たす。これにより、研究内容が精査され、質の高い成果報告を目指す道筋が整えられる。

研究倫理は単なる規制やルールではなく、研究そのものを発展させ、信頼性を高めるための重要な枠組みである。教育実践研究者としての責任を果たすとともに、研究の質を向上させるための一助として、前向きに取り組むことが求められる。

教育実践研究をまとめる (22)構想図,ネットワーク図を作ろう

教育実践研究の成果を発信する場としては,最終報告書に加え,大学院での発表会や学会での発表がある。発表の際には,まず自身の研究の全体像を伝えることで,聞き手に理解してもらいやすくなる。

発表を聞く人はタイトルから興味を持つが,多くの場合,その内容を初めて聞くか,以前に聞いたことがあっても忘れている可能性が高い。そのため,「聞き手が知らない」「初めて聞く」という前提で情報を提供することが重要である。これは,同じメンバーで行うゼミでの発表とは異なる。ゼミメンバーは,発表を繰り返し聞いているから,説明していない点もなんとなく理解してくれるからである。

研究の全体像を伝えるには,1枚の構想図を提示するのが効果的である。私の経験では,多くの方は私などよりも構造を視覚的に示すことが得意であり,数回繰り返すうちわかりやすいものを作成してくることが多い。

もし図示が苦手な場合は,研究の目的と手順を順序立てて示すだけでも聞き手の理解が深まるだろう。長期的に進める教職大学院の教育実践研究では,目的と手順を整理するだけでも内容がわかりやすくなる。パワーポイントのSmartArt程度の簡単な図で十分である。手順がまだ整理されていない場合は,教職大学院の複数科目にわたる実習内容を科目ごとに整理するのも有効である。

さらに,複数のメンバーや組織単位で進める研究では,関係者の役割を示すネットワーク図を描いてみるのも良い。誰が研究に関わり,どのような役割を果たしているかを明示することで,研究の背景がわかりやすくなる。たとえば,研究主任として校長や教頭,学年主任とどのように連携し,役割を分担しているかを図示すると効果的である。

このように作成した図は,報告書にも活用できる。当初の計画段階で作成した図はあまり具体的にならないことが多いので,むしろ実践の途中から描き始めても遅くはない。

学校の実践に役立つ研究であること

昨年度の末,1本の論文が本学の紀要に掲載された。

寺嶋 浩介,勝田浩次, 斉田俊平, 菊地寛, 平田篤史, 中川一史(2024) 思考力・判断力・表現力の自己評価項目の類型化-小・中学校の学習指導要領に基づいて-. 『教育実践研究』17, pp.1-10.(2024年3月29日)
https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/webopac/TD00032924

学校現場で使える項目を意識し,長い時間をかけ,項目は作成された。そして,その調査を行った結果もまとめた。

「学校現場で使えること」を意識すると,その方法は,研究論文化される「研究」の厳密さからどうしても離れていってしまう。そのようなことを感じさせられた。

この取り組み,以前の学習指導要領で行ったことを,今の学習指導要領にもその考えを適用しながら取り組んだものであった。私の中では実ははじめはやるつもりはなかったのだが,声をかけられ取り組むこととなったものだ。その際なぜか複数の人から別々のところで声をかけられ,学校現場でのニーズもあるのかと思い,取り組みましょうか,ということで進めたものであった。そのような経緯で,複数名の校種も異なる先生方と進めた。

少しでも学校現場に届いて,役立ってくれたらなと思う。

なお,本誌の中で引用もしているけれど,高等学校における項目も作成をしている(が,われわれとしては調査を行っていないので,本論文には掲載していない)。項目だけなら,以下にある。

勝田 浩次, 寺嶋 浩介, 斉田 俊平, 菊地 寛, 平田 篤史, 中川 一史(2022) 学習指導要領に基づく思考力・判断力・表現力の自己評価用項目の開発-小中高等学校の学習指導要領を対象として-. 『日本教育工学会研究会報告集』JSET2022-2, pp.156-161.(2022年7月2日)
https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.2_156