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教育実践研究をまとめる(9)先行研究(?)を検討する

研究のすべては,先行研究を検討することが求められている。教育実践研究においてもその例外ではない。例えば,(1)言葉を定義するにおいても既存の研究等をヒントにして,定義をすることについて述べた。

一般的な「研究」における先行研究は,基本的に学術論文を検索し,既存の研究について検討するという極めてシンプルな方法を取ることになる。

しかし,教育実践研究においては検索すべきものが多様であり,それぞれから得られるメリットが有る。

  1. 上記同様に学術誌を検索することは求められる。しかし,これでは限定された範囲に留まることが多い。研究テーマが焦点化されすぎており,「自分にマッチしたものがない」とすぐに結論づけてしまう危険性がある。
  2. 論文としては刊行されていなくても,書籍として発行されているケースがある。論文は短く書かざるを得ないため,ひとつのテーマについて体系的にまとめたいと思う研究者・実践者が多いためである。
  3. 教育実践事例集のようなものについて検討することも必要である。たとえば書籍として発行されている例もある。あるいはパナソニック教育財団のようにこれまでの実践研究助成をデータベース化しているものもある。文部科学省等が発行している例もある。
  4. 文部科学省の政策や学習指導要領,政策形成の過程となる議論においても自身が考えているテーマがどのように位置づけられているか確認したほうが良い。
  5. 最近は少なくなってきているが,各学校で発行される研究紀要も参考になる。研究先進校や大学附属校の実践トレンドを掴みたい。
  6. 5に比して最近は,教育センター等がWebで事例集や研究成果物を公開することが増えてきているので,これもおさえたい。
  7. 1-5はテーマに関するもので,これとは別になるが,研究方法に関する書籍についてもいくつか目を通してみると良い。ただし,研究初期の段階では目を通さなくても良い。

教職大学院において,これらのことがまとめて「先行研究」と述べられてしまうことが多い。ところがその内実は,研究者なら1を前提にしている人もいるし,実務家教員の場合内実3や4を前提にしているケースもある。どちらが正しいというわけではなく,質が異なるため,いずれも必要である。あとはテーマによりどのカテゴリにどれだけ蓄積されているかは異なってくる。

こうなってくると,「先行研究」という言い方は,教育実践研究においてはあまり適切ではないのかもしれない。幅広くあたることが求められるため,この作業はかなり大変である。期間が決められている中での研究であるから,どうしても完璧にとはいかない。

できるだけ充実した教育実践研究をすすめるためには,いろんなレベルがあることに注意し,いずれのレベルも収集する必要があるということである。

教育実践研究をまとめる(8)校内・組織内の課題の分析で次に行うことは

前回の続き。

いよいよ既存のデータから整理ができ,それでもさらに課題を明確にしたいときは,実際のところ現状はどうなのか,ということを調べる。

ここでよく受ける質問のひとつに,「アンケートを取りたいのですが・・・」とここでも来る。

オーソドックスに言えば,量的な調査であるアンケートのようなものとそれではわからないような詳細を調査し,分析したほうがよい,ということになる。

しかし教職大学院の実践研究の場合,時間は有限であるということ,そもそも実際のアクションを起こさないとはじまらないこと,アンケートの場合,充実した質問紙を作ろうとしたらそれなりに時間がかかることを考えないといけない。また,仮に学校の先生で自校で課題発見の場合の調査をかけようとしても,そもそも人数が少ないことがほとんどなので,充実した量的調査を行うことは難しいことが予想される。

このため,問題発見の方法としての次のステージは,「インタビュー」をおすすめしたい。もちろん,インタビューにだって,手法上勉強しないといけないが,よくない質問紙より多くの情報を得ることができる。

誰かに見てもらいながら,複数の質問項目を立て,その項目を利用し,複数名に聞いてみる。初期段階では,話してもらったことをもとに,質問項目を多少見直すことも必要である。

各対象者(A,B,C・・・など)を縦列,各質問項目を横列に並べ,回答の趣旨をそれぞれのセルにまとめる。そして,各質問項目別の回答傾向の特徴をまとめる。また,各対象者の回答の特徴をまとめ,その回答に類型があるかなどを見るというのが,分析の初歩であり,この段階ではこの方法で内容を確認するということで問題ないと思う。分析手法はもちろん学んでおいて損はないが,まず誰でもできる手だてをとるというのが鉄則である。

大阪府のICT担当指導主事を対象に講演

昨日,大阪府教育センターを訪問した。かつて大学院生の実習のために何度か通ったが,実に久しぶりであった。

文部科学省のICT活用教育アドバイザーとして,大阪府から依頼があった講演について事務局から指名があり,日程も空いていたため,実現した。

大阪府の政令市を除く,市町村の教育委員会のICT関係担当指導主事の先生方へ,GIGAスクール時代に教育委員会として配慮する必要がある点について,お話をした。

普段大阪市との付き合いが多く,大阪府での仕事はあまりなかったが,この会を通して,多くの自治体が一所懸命取り組まれている様子などを把握することができた。こうしてすでに進んでいる自治体に対して,大学は何をできるかを考えていかないといけないだろう。

研究会で発表

先週,信州大学において,日本教育工学会研究会が対面で久しぶりに開催された。以下について,発表をした。

勝田 浩次, 寺嶋 浩介, 斉田 俊平, 菊地 寛, 平田 篤史, 中川 一史(2022) 学習指導要領に基づく思考力・判断力・表現力の自己評価用項目の開発-小中高等学校の学習指導要領を対象として-. 『日本教育工学会研究会報告集』JSET2022-2, pp.156-161.(2022年7月2日)
https://doi.org/10.15077/jsetstudy.2022.2_156

ファーストの勝田さんが仕事のため,私が発表をすることになった。研究会での発表は,2017年以来らしい(この間の2年間は研究会委員長で研究会には結構参加はしていたので,まさかである)。

この内容について,昨年度の春先から取り組んできた。夜にZOOMで寄り合い,議論を重ねたもので,実は結構な時間がかかっている。中川先生と勝田さんにこのテーマについて別途同時に声をかけていただいた中で実現したものであった。

学習指導要領を思考力・判断力・表現力の視点から整理したものであり,何らかの形で教育実践に寄与できればと思う。ひとつ形になってよかった。

しかし,大阪ー名古屋ー信州というルートは,最近出張がなくなった中ではなかなかしんどい旅であった。

教育実践研究をまとめる(7)校内・組織内の課題の分析でまず行うことは

先の投稿において,外向きと内向きの分析があることを述べた。ここでは,内向き,すなわち校内・組織内の課題を分析することを考える。

ここでよく受ける質問で一番多いのは「どのようなアンケートをとったら良いでしょうか?」である。しかし,アンケートを行うというのはかんたんにできるものではないので,その前にまずはやりやすいことから考えたほうが良い。

ひとつは,すでに組織内においてなんらかのデータが残されていることがよくある。例えば,今までアンケートをとっているのだが,それが残っているだけでデータとして活用できていないという事例が見られる。ならばそれを分析しどういう事がわかるか,そしてこのデータで取れていない情報はあるかを検討する。後者については,今後アンケートを行うとしたら,項目の準備につながる。

そのようなデータが残されていなくても,校内に研究紀要,あるいはそこまでいかなくても何らかの文書が残されている可能性がある。ここでもどういう内容が取り上げられているかとか,かつてはどのような目標が設定されていたのかを,過去にさかのぼって調べることができる。

続いて,校内・組織内のリーダー(管理職などの校長)がどのような課題を感じているかをヒアリングしてみるという手段もある。対象者は少数で一般化できるようなデータではないが,トップやリーダー層が考えていることに基づいて,教育実践研究の課題との接点を明確にするのは必ず必要な作業だと言える。