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教育実践研究をまとめる(12)3段階のリフレクションを参考にする

これまで書いてきたことから少し離れるのだが,最近以下の書籍を読んだ。

ここの中で,リフレクションについてバンマネンのリフレクションの類型が紹介されており,著者なりの解釈が示されている。孫引きとなるが,バンマネンはこの3つについて以下のように定義しているという。これをそのまま引用すると,

技術的リフレクションとは,ある目的を達成するために,汎用的な原則を技術的に応用することである。(中略)実践的リフレクションとは,個人的な体験,認識,信念などを分析し,実践的な行動を方向づけることである。実践的リフレクションの背後には教育目標や教育経験が存在している。それらの価値を深く考え,その背後にある社会的な成約やイデオロギーを批判的に省察するのが批判的リフレクションである。

千々布敏弥(2021)先生たちのリフレクション. 教育開発研究所,東京 pp.156-157.

著者はこのあとこの考え方に独自の解釈を加えたり,事例を出したりしているので,読んでみることをおすすめしたい。

私がこれを読んで考えたのは,教育実践研究をまとめるときに,上記の技術的リフレクションにより過ぎていないかということである。これはまとめる本人だけではなく,それを指導する自分も含めてである。また,技術的リフレクションを重視する傾向は,学会誌論文における実践研究カテゴリにも同様の傾向が言えるのではないかと思った(もちろんその一方,技術的なリフレクションの視点から,その知見を共有し,みんなが意識化できる技術も特に教育工学においては必要だと思っている)。実はこのことにずっと違和感を感じていたが自身で表現する言葉が見当たらなかったので,本書を読んで分けて考える重要性に気がついた。

一方でリフレクションが重要だとしながら,技術的なものなのか,実践的なものなのか,批判的なものなのか,そのどれでもないものなのか,よくわからないリフレクションも教職大学院に多く存在するのではないだろうか。

このリフレクションにおいて,みんなでどういう合意を持てばよいのかを少し考えた。まずこうした視点を知っておき,分けて考えることから始めると良いのではないかと思った。教職大学院において実践研究をまとめる際には,いずれも必要なのではないか。ただし,それらは何がどういうリフレクションにより生み出されたものなのかがわかることが必要なのではないかと思う。

教育実践研究をまとめる(11)結果や成果は「やったこと」ではない

学年暦としては1年の半分が終わるこの時期,教職大学院における教育実践研究でも一旦区切りをつけてまとめる機会が多いのではないかと思う。私の所属する大学院においても,発表を通してそれをまとめる機会があった。
ここではだいたい,目的やそのためにどういったことに取り組もうとしたか(いわゆる計画)を語った上で,その成果や課題を説明するというのが一般的だと思う。


その「成果」部分において,「やったこと」を説明することで終わるケースがある。例えば,ある教育実践について,学校内での普及を図るという目的があったとして,その「成果」として「学校で授業研究を行うことができた」というようなものである。
これは本来,その前の計画部分に組み込まれるべきものである。もちろん,計画したことを実際に行動に移すためにはたくさんのハードルがあるに違いない。しかし,やっただけでは,直接「成果」とはいえない。もう少し言えば,計画で具体的に何を行うかについて構想していない場合,成果としてやったことやできたことを説明してしまうことになるのかもしれない。


成果として語られるべきものは「やったこと」「できたこと」「行動したこと」ではなく,「実際にやったことがどのような結果をもたらしたか」という形で説明されるべきである。例えば,研修の評価方法として有名なカークパトリックの4段階評価法(日本eラーニングコンソーシアムのページ)においては,一番レベルの低いものとしてレベル1(反応)からスタートしている。実際に教員研修をやったという事実があり,それが終了した際に,研修参加者からどのような反応があったかということが成果として語られるもののはじめの段階となる。
目的ー方法ー結果ー考察ーまとめと課題というフォーマットで普通の論文のように考えてしまうと,こういうことが起こるのかもしれない。ここでいう「方法」として書かれることは,教育実践研究においては,多様なものとなる。

本日書いたことに基づけば,通常の研究論文の「方法」にあたる部分は,少なくとも「(当初立てた)計画」と「実際に行ったこと」については含まれること,それらは切り分けて書かれるべきであるということになろう。その他この部分でまとめることは,次回以降に整理したい。

教育実践研究をまとめる(10)先行研究を比較検討する

前回,(通常は研究と言わないものも含む)先行研究について,どのように考え調べるかということについてまとめた。「多様に調べる」ということが重要であるとした。要は,量と質が大切である,ということになる。

しかし,それが通じないケースがある。1冊の書籍を通して自分にはストンとおちた,あるいは紹介された書籍がとても参考となるものだったという事例がそれにあたる。特定少数の資料を参考にするだけでは,基本的にうまくいかない。その資料は,質は高かったかもしれないが,量的な観点が抜けているのである。

そこから派生させて調べ続ける必要がある。複数調べて,その考え方の異同を比較検討することが必要である。結果1冊読んだ書籍の考え方を利用するとしても,なぜそれを用いるのかという理由を説明できることが必要である。それには,他の資料と比較検討して,なぜ当該資料を採用したのかという方法を取ると説明がしやすい。あるいは,複数資料を比較検討し,組み合わせる,という方法もあろう。

この段階で得てして「他に関連資料が見つからない」という言葉も聞く。これに対しては,キーワードをいくつか用意するということが必要である。たとえば,反転授業に関する研究を調べようとする。そのときに,「反転授業」というキーワードを利用しているだけでは広がらない。例えば,このキーワードに関連する新たなるキーワードを考えてみよう。そうすると,予習や宿題,家庭学習などというものを思いつく。

一方,絞れないというケースもある。この場合もキーワードが重要な役割を果たす。例えば,「ICT」だけを調べても無限に出てくるので,関連する資料に多く当たりながら,さらに深めたいキーワードは何なのかを考える必要がある。

なお,研究論文について整理,比較検討する場合は,文献をレビューする方法についてまとめられた書籍が出版されているので,そちらを参考にすることをおすすめする。

教育実践研究をまとめる(9)先行研究(?)を検討する

研究のすべては,先行研究を検討することが求められている。教育実践研究においてもその例外ではない。例えば,(1)言葉を定義するにおいても既存の研究等をヒントにして,定義をすることについて述べた。

一般的な「研究」における先行研究は,基本的に学術論文を検索し,既存の研究について検討するという極めてシンプルな方法を取ることになる。

しかし,教育実践研究においては検索すべきものが多様であり,それぞれから得られるメリットが有る。

  1. 上記同様に学術誌を検索することは求められる。しかし,これでは限定された範囲に留まることが多い。研究テーマが焦点化されすぎており,「自分にマッチしたものがない」とすぐに結論づけてしまう危険性がある。
  2. 論文としては刊行されていなくても,書籍として発行されているケースがある。論文は短く書かざるを得ないため,ひとつのテーマについて体系的にまとめたいと思う研究者・実践者が多いためである。
  3. 教育実践事例集のようなものについて検討することも必要である。たとえば書籍として発行されている例もある。あるいはパナソニック教育財団のようにこれまでの実践研究助成をデータベース化しているものもある。文部科学省等が発行している例もある。
  4. 文部科学省の政策や学習指導要領,政策形成の過程となる議論においても自身が考えているテーマがどのように位置づけられているか確認したほうが良い。
  5. 最近は少なくなってきているが,各学校で発行される研究紀要も参考になる。研究先進校や大学附属校の実践トレンドを掴みたい。
  6. 5に比して最近は,教育センター等がWebで事例集や研究成果物を公開することが増えてきているので,これもおさえたい。
  7. 1-5はテーマに関するもので,これとは別になるが,研究方法に関する書籍についてもいくつか目を通してみると良い。ただし,研究初期の段階では目を通さなくても良い。

教職大学院において,これらのことがまとめて「先行研究」と述べられてしまうことが多い。ところがその内実は,研究者なら1を前提にしている人もいるし,実務家教員の場合内実3や4を前提にしているケースもある。どちらが正しいというわけではなく,質が異なるため,いずれも必要である。あとはテーマによりどのカテゴリにどれだけ蓄積されているかは異なってくる。

こうなってくると,「先行研究」という言い方は,教育実践研究においてはあまり適切ではないのかもしれない。幅広くあたることが求められるため,この作業はかなり大変である。期間が決められている中での研究であるから,どうしても完璧にとはいかない。

できるだけ充実した教育実践研究をすすめるためには,いろんなレベルがあることに注意し,いずれのレベルも収集する必要があるということである。

教育実践研究をまとめる(8)校内・組織内の課題の分析で次に行うことは

前回の続き。

いよいよ既存のデータから整理ができ,それでもさらに課題を明確にしたいときは,実際のところ現状はどうなのか,ということを調べる。

ここでよく受ける質問のひとつに,「アンケートを取りたいのですが・・・」とここでも来る。

オーソドックスに言えば,量的な調査であるアンケートのようなものとそれではわからないような詳細を調査し,分析したほうがよい,ということになる。

しかし教職大学院の実践研究の場合,時間は有限であるということ,そもそも実際のアクションを起こさないとはじまらないこと,アンケートの場合,充実した質問紙を作ろうとしたらそれなりに時間がかかることを考えないといけない。また,仮に学校の先生で自校で課題発見の場合の調査をかけようとしても,そもそも人数が少ないことがほとんどなので,充実した量的調査を行うことは難しいことが予想される。

このため,問題発見の方法としての次のステージは,「インタビュー」をおすすめしたい。もちろん,インタビューにだって,手法上勉強しないといけないが,よくない質問紙より多くの情報を得ることができる。

誰かに見てもらいながら,複数の質問項目を立て,その項目を利用し,複数名に聞いてみる。初期段階では,話してもらったことをもとに,質問項目を多少見直すことも必要である。

各対象者(A,B,C・・・など)を縦列,各質問項目を横列に並べ,回答の趣旨をそれぞれのセルにまとめる。そして,各質問項目別の回答傾向の特徴をまとめる。また,各対象者の回答の特徴をまとめ,その回答に類型があるかなどを見るというのが,分析の初歩であり,この段階ではこの方法で内容を確認するということで問題ないと思う。分析手法はもちろん学んでおいて損はないが,まず誰でもできる手だてをとるというのが鉄則である。