「本」カテゴリーアーカイブ

[本]Excelで今すぐはじめる心理統計

授業の関係で,長らく研究方法論や研究手法に関する書籍には継続的にチェックをしている。

今年度から,他の担当の先生と話し合い,授業でHADを取り入れることになった。フリーなのだけれど,本当に色々と活用できる素晴らしいソフトで,マニュアルも充実している。

ただ初学者は,どういう分析があるのかを知った上で,利用するという意味では他に書籍が必要となる。

本書でははじめにカバーしたい統計分析の手法について説明されており,HADを利用したやり方もあわせて説明してくれているので,とても便利なものとなっている。ソフトウェアの使い方だけではなく,どういう分析かということもかかれているので,かなりお得な1冊だと思う。

[本]教育委員会が本気出したらスゴかった。

本書は,3月からはじまった一斉休校時に,4月15日から小・中学校においてオンライン授業が展開された熊本市がどのような取り組みを行ったのかがまとめられている。開始までの45日間をどのように準備をしたのか,どのように実施されたのか,なぜできたのかなどについてまとめられている。非常にわかりやすく書かれているので,誰でも読めるようになっている。

本書を読んでみると,熊本市がこのようにすすめることができた秘訣として,いち早く準備に入っていること,トップダウンで入ってはいるが,信頼した上で現場に大きく委ねている部分があること,かつては熱心に取り組んできた歴史性があること,(これは私の見聞きしたところとも合致するが)ICTとは関係ないところでの授業づくりに熱心な風土,というのがあるのだと思う。

自身の記録をたどってみると,2016年に熊本市のある学校を何度か訪問をしていた。先生方は熱心であるが,いかんせんICT関係はまるで環境がなかったことを記憶している。だから,昨今の熊本市の取り組みを聞いていても本当に進んでいるのかどうかイメージが沸かなかったが,着々と進めてこられた様子がよくわかった。

本書からは,オンライン授業のイメージにも実際に触れることができる。ずっとオンラインで接続しているわけではなく,1日の一部ずつを学年別などで工夫を凝らして行っている。一般的にイメージされているものとは少し異なるので,こうした点からも大変参考になる。
現在再び緊急事態宣言に入るところが増えてきているが,学校はそのまま行われる流れとなっており,これまで言われてきたものと同じオンライン授業であれば,そのニーズはさほどなさそうである。このような中で熊本市が今回の成果を他の授業に生かしていくのか,注目したい。

デジタル・ミニマリスト

デジタル・ミニマリストという書籍を読んだ。本書は,人々はスマホ,中でもSNSに過剰に依存をしていることをとらえ,なぜ依存をしているのか(そこにはある仕組みがあることを書いている),そこから解放されるためにはどう考えればよいのかについて書かれている。

著者は多くの人が依存をしているという認識がそもそも薄いということから,そこから抜け出すための重要性や意義を問うている。それに加え,スマホやSNSとの付き合い方をどうコントロールするかについて,多くの人の事例をもとにしながら,いくつかの原則を列挙している。

やはり自分もこうした側面があることについて気にかかっており,それは特に休日に意識化される(日曜日のスクリーンタイムの集計がやってくるから)。また,自宅にいる時間が長くなったのもその要素としてあるだろう。本書を読むまでも,たまにFacebookから長く離れるなど,自分なりに実験をしてきた。

本書を読んでみて,技術的にいくつか工夫できる点に気がついた。またやってみなければ始まらないので,自分なりにメディアを避ける実践を少し実践をし始めてみた。そもそもこういう実験を面白いと思えるし,研究にもつながるかなと思うので,大きなストレスは特にない(が,若干気にかかる・・・)。こういう感情を大切にしたい。

本書にはたくさんの事例があるが,結論は自分で参考にしながら工夫すること。スマホそのものの活用だけではなく,それ以外の活動(空き時間など)をどうデザインするかの方にむしろ自分の課題を感じた。

学習設計マニュアル

自身の大学の授業に,インストラクショナル・デザイン視点を入れてから,15年がたった。当初は,教材設計マニュアルを利用し,今は,自分が分担執筆者にもなっている授業設計マニュアルを活用している。「教え方」を学ぶための本として活用しているわけだが,やっていると,「これは学び手である自分に置き換えてみると,学習の手引となる」ということを実感できるようになり,大学の講義においてはそうしたことを伝えようとしてきた。

そうしたなんとなくの思いが学習設計マニュアルという書籍には,見事に反映されている。自分の学びをデザインするという視点から,章立ては比較的細かく用意されている。大学での導入教育等で活用することを意図しており,非常にわかりやすい。それだけではなく,大学院生にもおすすめしたいと思った。

本書は,教育工学を研究するという立場からも,興味深い書籍である。教授ー学習デザインを考える際に,どの点から考えればよいか,その視点を提供してくれる。

著者グループは概ね知っている方ばかりだったので,誰がどの章を書かれているか,自分でも推測しながら,興味深く読ませていただいた。

久保田賢一・今野貴之(編)「主体的・対話的で深い学びの環境とICT」が出版されました

標記書籍が出版された。Amazonでも掲載されている。

タイトルの通り,主体的・対話的で深い学びをキーワードとして,それを実現するためのICT活用や学習環境について記されている。ひとつの特徴としては,とりあげられている実践の幅広さがあげられるであろう。東信堂のページには,目次があるので参照されたいが,これまでの関連書籍とは全く異なったバリエーションがある。ロボットの活用,ゲームの利用など,こうしたたぐいの書籍ではこれまであまり触れられなかったものである。加えて,初等・中等教育だけではなく,高等教育の事例が含まれているのも特徴的であり,幅広い読者を対象としている。

私は第一部で,「学び続ける専門職としての教師」ということで執筆した。教育の情報化が進む昨今で,どのような教員の養成や研修が求められるか,そのことについて執筆した。また,本書は教員養成の講義での教科書として活用されることが想定されているので,編著者のリクエストに応じて,講義で使われることを想定した問いかけを積極的に入れることにした。

本書のもうひとつの特徴として,関西大学大学院総合情報学研究科で編著者の一人である久保田教授のもとで勉強した人たちで構成されているという点がある(最近では,同じ学会の人でもこれらの人が同じ研究室の出身だということを知らないかもしれない)。こうした研究室単位での執筆というのは,特に内容が偏りがちになってしまうが,執筆者がそれぞれやっていることが気持ちいいまでにバラバラなので,内容の多様性をもたせることができているのではないかと思う。その一方で何らかの共通点を探るとするならば,みんなどこかでの教育現場での実践研究を試行錯誤的に積み重ねているというところにあるだろう。各章の実践からみんないろんな苦労をしてるんじゃないかなと思った。

機会があれば手にとって読んでいただければと思う。なお,本書は以下の書籍の続編的な位置づけなのだそうだ。
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