教育実践研究をまとめる(21)結果をどうまとめるか(その2:評価)

前回書いたものから数ヶ月がたってしまった。

前回は,以下をまとめることが必要であること,そのうち1の内容について説明をしている。

1について書かずに2に入ってしまうと,よくわからなくなるため,実際に行ったことを述べることが必要である。

1.実践した内容
2.その内容の評価

今回は,2について説明する。多分実践研究をやろうとしている人は,書かないといけないことは意識はしているが,やったことだけ書いて終わっているもの(上記1だけのもの)や,感想に終わってしまっているものなどが見られることがある。

ここでは,大きく2つに分けられる。

(1)終わってわかったこと(データや行動に基づいて)

(2)できたことと出来なかったこと,リフレクション(成果と課題)

(1)は,実践が終わったのち,データを分析した結果について述べる。アンケートによるデータやその分析結果,インタビューの分析などがあるだろう。あるいは,授業等における児童や生徒の行動の分析等があるかも知れない。これらは,教育実践が終わってからそのデータを分析することが一般的である。その前に計画をした評価方法・データの収集方法に従って述べること,できるだけ客観的なデータ,誰が分析しても同じような結果になるデータをここでは取り上げるのが中心である。それを踏まえて,データからどのようなことが言えるのかをまとめる。

(2)はより主観的なものとなる。教育実践研究においてはこれも重要であると別のところでも説明してきた。計画に即して,できたことと出来なかったこと,あるいは計画にもなかったがこれをやっておけばよかったのではないかと考えることなど,自身の振り返りをまとめる。ここでは,成果と課題のバランスが重要である。課題はたくさん見つかるかも知れないが,課題を見つけることは簡単なので,何ができたのかをきちんと述べることがまず重要である。

この部分が書けていない例として,いくつかのパターンがある。

・(1)がなく,(2)しか書いていない

・(2)がない

・データのみが羅列されており,どうだったかの解釈がない

・課題がなく,研究というよりかはアピールとなっている

・成果がなく,ただの反省となってしまっている

すべての内容をバランスよくまとめていることが必要である。

教育実践研究をまとめる(20) 結果をどうまとめるか(その1: 実践の内容)

これまで,計画段階のこと,結果や成果と「実際にやったことは異なる」ということを示してきた。

こうしたことを踏まえ,教育実践を行った際,どのようにまとめるかについてまだ具体化していなかった。今回は,このことについてまとめる。

通常の論文でいくと,「方法」の次の「結果」にあたるセクションである。しかし,「結果」を書きましょう,と言われ書くだけでは,見落としてしまうこと,伝えきれないことがある。

この「結果」セクションにおいては,大きくは次のような情報が必要である。
1.実践した内容
2.その内容の評価
本稿においては,まず1について説明をし,覚えていたら次の投稿で2について説明したい。

この1において書くことは,次のようなことである。なお,その前には先の記事にあるように,「計画」を執筆している前提とする。

  • 計画どおりに,実際に行ったことや行えたこと,計画にそって進めたときに実際に起きたこと
  • 計画と異なったところ,意図していなかったことで実際に起きたこと,突発的に対応したこと,
  • 計画と比較し,なぜそうなったのか

計画したことはあくまで机上のことなので,計画通りいったとしてもその実際の詳細について書く必要がある。そして教育実践が100%計画通り進むことはまずありえない。このことから,以上が何だったのか,実践した内容をまず明確にすることが必要である。「結果」だからいきなりアンケートのデータを並べられても,実践内容がないとなんのことかさっぱりわからない,ということになる。

そして,この実践内容に当たっては,それを特に誰が行ったのか,主語を明確にすることが必要である。教育実践研究をまとめる際には,行う主体は自分自身である。しかし,実際に起きたことなどをまとめるとすると,児童・生徒が反応や,他の教師の対応などの情報が入ってくることが予想されるからである。

次回は上記2についてまとめたい。

大村市立大村中学校20230928

長崎県大村市は,長崎空港を抱える市。この市の大村中学校で,文科省リーディングDX事業に関わる授業公開があるということで,そこで講演をすることになった。

長崎から大阪教育大学に異動して9年目,まさか呼ばれることになるとはと正直驚いた。長崎大学に着任したとき,教育実践総合センターという教育実習を扱うところに所属した。その際,附属校との共同研究で,当時附属中の実習担当としてお世話になったのが大村中の現校長の田中先生であった。その後も,教職大学院の同僚としてもご一緒する時期もあった。そんなつながりから訪問をした今回の研究会であった。

理科の公開授業が1本あり,それに合わせて授業について議論がなされた。いわゆる個別最適な学びを意識し,クラウド環境を活用しようとする,リーディングDXで目指されている授業だったように思う。授業構想シート(大村中学校の研究のページ)なるものを用意し,先生方がそれに沿った授業づくりを行っているということであった。それについて倉田先生@長崎大学が講評され,そのあとに私の講演があった。

ICTの活用というよりは,教育方法の観点からお話する時間が多くなったが,それで良かったかな…と思いつつ90分とたっぷり話した。2月にも第2弾の公開研究会が催されることになっている。

研究会に参加された人の中には,私の授業を履修していた方や,お知り合いの方などが数名おられ,懐かしい再開を果たした。中でも,長崎時代の終盤に附属学校を通してお世話になった教育庁の鶴田先生とも久しぶりにお会いすることができた。現在では,長崎県の教育の情報化を担っておられる。

昔のつながりを懐かしく思いつつ,現在の長崎での取り組みに少し貢献でき,嬉しく思った1日であった。

教育実践研究をまとめる(19)長期休暇中にやるべきことは?

学校の先生が,学校をフィールドにした教育実践研究を進めていると,長期休暇中はその実践研究自体は進展しないことが多い。学校は休み中で授業がない。おまけに大学院の方も,ゼミが開催される頻度も減る。自身のテーマが教員研修であれば本番を迎えるところかもしれないが,多くの人にとっては,実践研究としてはあまり進展がないのではないだろうか。

こうした時期にやることは,「とにかく書く」ということである。報告書を書くのは時間がないと進められない。しかも,このときはある程度何かを実習で進めたという実績もあるのではないだろうか。私の所属する大阪教育大学の連合教職大学院では,半期に1回,夏休みや春休み前に中間報告の場が催されるが,そのような場がもしあったとしたら,内容はある程度持っているはずである。

この時期には積極的なアウトプットをおすすめしたい。中には,インプットに積極的になる方もおられると思うが,それは継続的にこまめに続けるものである。一方,書くのには気構えがいる。一気にすべてを書くことはできない。書くためのスタートを早くしたい。

完全にまとめなくても良い。論文体のものでなくても良い,日記のようなもので良い。何をやったのか,その結果どうだったのか,何を考えたのか。これらは後で思い出しても時が経てばたつほど忘れてしまうものである。完成度は気にせずどんどん書き溜めたい。

こうしたことをやっておけると,後に推敲に時間を割くことができる。1回書いて終わってしまわないためには,先に編集できる素材を作っておきたい。

教育実践研究をまとめる(18)マイ・プロジェクトを進めるために

教職大学院の実践研究も,通常の研究とまでは行かないが,ある程度構成的に書かなければ,他者に伝えることはできない。自分のやったことを時系列に伝えるだけでは,「それってあなたの日記ですよね?」という指摘を受けることになる。

一方,それを背景ー目的ー方法ー結果ー考察ーまとめというフォーマットに落とし込んで伝えようとするならば,見た目は良いのかもしれないけれど,あまりにもキレイで,より客観的なものになり,その良さが失われるようにも思う。こうしたことは何度も書いてきたように思う(書くのがあまりにも久しぶりで忘れているけれども)。
後者は成果として焦点化されたものであるからできれば他の人にも参照可能な知見としてぜひまとめたい。しかし,前者には価値がないのだろうか?

私は研究者教員でもあることから後者を重視してきたが,長らく進めてくると,前者にも当該本人にとって大きな価値があるのではないかと思えるようになった。

例えば,ICTを活用した授業研究を学校内で進めようと自分で企画をするとする。それは時間をかけて先行的な実践を検討したりして計画をしたものであれば,頑張って実施して良い成果を収めたい。

しかしそうはうまく行かない。学校内の授業研究グループで提案をしても,自分の伝え方に原因があり,あまり受け入れられないこともあるかもしれない。そもそも,それを検討するに当たりグループでの打ち合わせをしようとするもみんな忙しくて日程調整が敵わない。このようなことを通して,思ったことがうまく進まない院生が大半である。

でもそこで足を止め,少し振り返って「こういう方法で発信すればよいのだな」とか「管理職よりも先にAさんに相談をすればうまくいくのではないか」など考えたりしてみる。このようなことが今後自身の職務をうまく進めていくときの知見や教師としての力量にも繋がってくるのではないだろうか。

すなわち,自身の教育実践研究をひとつのマイ・プロジェクトと捉え,その試行錯誤を含む取り組みを通して,自身の力量を省察していくことが「学校における実習」,個人的な視点を少し削ぎ落としつつ,他者も参照可能な客観的な研究知見になりそうな主なところをまとめていくのが「実践課題研究(修了の報告書)」という捉え方で良いのではないだろうか。

その際,前者と後者の発表や成果物をどの程度切り分けるか,同じ情報からそれは判断できるのか,あるいはその比重は,などといったところは個人のキャリアなどにも大きく関係するのではないかと考える。