論文刊行

今年度のはじめ,そこそこ時間をかけて書いた論文がようやく発行された。紀要ではあるが,査読のプロセスもあり,発行までに少し時間を要した。

寺嶋浩介・泰山裕・時任隼平・藤井佑介(2022) ICT推進リーダーの校内での普及・推進に資する行動の分析 ─研修転移場面での経験学習の視点から─『大阪教育大学紀要 総合教育科学』70, pp.209-220.(2022年2月28日)https://opac-ir.lib.osaka-kyoiku.ac.jp/webopac/TD00032240

<要旨>
本研究では,ICT推進リーダー研修を受講した教師が,研修終了後にICT活用の普及・推進に関わる取り組みをどのように考えて行っているかを明確にしようとした。経験学習の観点から,対象者は「信念」に基づいて,「エンジョイメントとストレッチ」にあわせて,「技術」を適用することで行動をしているという仮モデルを組み立てた。仮モデルに基づき5名の教師に対してインタビューをした上で,発言をコード化し,仮モデルの下位カテゴリを記述した。その結果,教師の行動の具体が明らかとなった。成果を解釈し,今後のICT推進リーダー育成研修プログラムへの適用可能性について提案をした。

RICOH THETA Z1

RICOH THETA Z1を購入した。より簡単な授業等の収録や配信の可能性,VRの可能性を考えてのことである。使ってみたところ,なかなか奥深いもので,(時間もないのに)さらなる探究が必要であることはわかった。以下は覚え書き。

できたこと
・360度写真→写真を取り,Macの「写真」アプリからオリジナルで書き出し,RICOH THETAという基本アプリに書き出す。
・ZOOMでの2次元動画配信。ZOOMからカメラから。あるいは,OBSを介して。
・FaceBookからの2次元ライブ配信が一応できたが,画質が高すぎで,フレームレートが低いという指摘を受ける。OBSで下げたら良いような感じ?
・YoutubeへのVR動画の投稿。収録した映像をMacの「写真」アプリから,オリジナルで書き出し,RICOH THETAという基本アプリに書き出して,天頂補正ありにチェック。それでできたファイルをYouTube にアップをする。(アプリRICOH THETAを利用しない場合は,ファイルをSpatial Media Metadata Injectorを用いてタグをつける。)

今後,行いたいこと
・YoutubeLIVE(VIMEOはプレミアムが必要となり,さらに費用がかかるので不可のようだ)
・低画質での長時間録画(アプリが追加で必要だが,難しそう)
・VRゴーグルを活用し,動画を視聴

連続する実践研究は「のりしろ」が重要

教職大学院で,教育実践研究の報告書を院生がまとめることについて指導をしてきた。この指導についてあまり言語化できていないところがあり,今後気にとまったことを都度書いていきたいと思う。

報告書をまとめる際に,特に重視しているのは実践と実践の間の「のりしろ」である。院生は2年に渡り,10単位の実習を進める。多くの場合,ひとつのセメスターの取り組みが1章分に相当するので,目的や先行研究,最後のまとめを除けば3,4章分できることになる。この各章のつながりを「のりしろ」と自分の中ではいっている。章と章をどのようにつなぐのか,ということをイメージしている。

ある章の実践研究には,成果と課題がある。ここで取り上げられた課題をクリアすることが,次の章の目的となる。この課題と目的の一致が重要である。

もちろん,前の章に掲げられる課題には,次の章の目的に直接つながるものと,そうではないものがあるだろう。直接つながるものは実践研究の主要なテーマとなるものや全体のデザインに大きく作用するもの,そうではないものは少し改善されれば明らかに効果につながるものや振り返ってみれば当然だが,実践においてできていなかったことがあげられるだろう。

心理統計の使い方を学ぶ

柴田康順(2018)心理統計の使い方を学ぶ ー質問紙調査による実践を通じてー. 大正大学出版会,東京 を読んだ。この本は,大学生を対象に書いたもので,特に心理系の卒業論文を執筆する際,質問紙を用意し,得られたデータを分析,それをまとめて考察していく際に気をつけると良い点が示されている。

私は授業などでHADという統計ソフトを利用することがあり,作者の清水先生のサイで紹介されているので手にとってみた。心理学のことを勉強する学生さんで思いがけなく統計と出会うことになり戸惑う人を対象にしていて,その点に非常に気を使った書籍となっている。極力難しい話を避けながら,ポイントを絞ったとても丁寧な説明が行われている。

当初手に入れる前は,統計のことが中心に書かれている書籍,HADのマニュアルに近いものをイメージしていたのだが,どのように研究を進めてまとめるかということを全体的には取り扱っている。著者は指導に悩まれ,その点をできるだけ言語化しようとした結果,このような書籍になっているのだろうと思う。そういう点で,私も指導するという立場の者からすると参考になる点が多い。

私の専門分野もそれにあたるが,心理学系に限らず卒業論文等で統計分析を考えている人には第1冊目として有用な書籍だと思った。

まんがで知るデジタルの学び

前田康裕(2022)まんがで知るデジタルの学び.さくら社,東京 を読んだ。この本は,漫画によるストーリーを通してICTの活用がなぜ必要なのか,その意義となる部分について説明しようとしたものである。

内容としては,資質・能力の育成,学習者中心の教育,情報スキルやモラルといった今日よく文言としては紹介されることについて,学校の一般的な目線に立ちながら,なぜそれが重要なのかがわかる内容となっている。また,さらに興味を持った人はその背景なども学習できるように,各章で著者の解説や書籍の紹介がある。

私の知る限りでは,前田先生のこうした漫画のシリーズは7冊目となると思う。これまでの6冊とも素晴らしい内容で,毎度これで終わりかな・・・と思っていたらどんどん出てくる。そして,毎回前回の内容を上回る質の高いものが出版されている。どこから何を考えて,こうした形を成立させていくかが大変興味深い。

以前からもし聞かれたらどうしよう・・・と思っていたことのひとつに「学生さんにおすすめの本はありますか?」という質問がある(ただ,実際に聞かれたことはない)。現段階では本書をおすすめしたい。